into the blue

将来の夢はキリン

1月下旬に読んだ本

「○○に読んだ本」シリーズをまた書いていく。

※前回→年末年始に読んだ本(と、観たドラマ) - into the blue

最近本を読むのがかなり楽しい。面白すぎるのだが!?!?という気持ち。今回、ものすごい本に出合ってしまったな……という感覚だったので書き残しておく。

 

芥川賞を受賞した作品で、賞が発表される前後に色んな人が絶賛していたことが記憶に残っていたため、いつか読みたいと思っていた。この頃、本の話をする場ではどこでも『コンビニ人間』が取り上げられていた気がする。気のせいか?それくらい印象に強く残っていた作品。

で、ようやく読んだわけですが、芥川賞受賞したのは7年前ですって。え、7年前……???いやめっちゃ前やんけ……。つい最近だと感じていた自分の感覚を疑った。読みたいと思ってから7年かかることもあるが、それでも自分が読める時期に読むしかないので。うん。

 

村田さんの作品は初めて読んだが、読みやすかった。読みやすくてさっぱりした文体なのに、こんなに鋭く現実を切り取ることができるんだと思った。

読みながら、これはSFなのか……?という気になってくるのだが、SFにしてはあまりにも現実的な設定なので、やはり現実なのか……とまた戻ってくる。その感覚の行ったり来たりの浮遊感がまさに宇宙空間にいるようで、でも目の前に広がるのは見慣れたコンビニの風景で。地に足はついているはずなのにふわふわするという不思議体験。

主人公については、「人生においてやりたいことが無い人はこうなる」という一種の実験結果を見せてもらったような気になった。やりたいことが無いことが悪だと思っているわけではない。むしろ、やりたいことが無いからこそ、自分の力が発揮される分野でただひたすらにやるべきだと思えるのだなと思った。これはこれで幸せな生き方だなと感じた。コンビニ店員として働くために生まれてきたのだから、コンビニ店員として働くことが正解なのだ。

一番感動したのは、主人公の家に妹が来たシーン。白羽さんが説明をして、それに安心して泣いている妹、という構図に感動した。あ、それだけで良かったんだっていう(笑)妹ちゃんはお姉さんのことを心配しなくてよくなったから良かったし、姉としても妹の心配を跳ね除けられて良かったねっていう。私的には感動シーン。その感動シーンを経たラストだからこそホラーっぽくなるという。不思議だし凄い。文体とテーマの選び方から、星新一みを感じた。他の作品も手に取ってみたい。

 

 

  • わたしが子どもをもたない理由(わけ)/下重暁子

人生プランを考える中で、子どもをもつかもたないかということを自分ごととしてきちんと考えたいと思うようになってきた。そんな折に見つけたので手に取った。

今の私は、子どもが欲しいとも欲しくないとも、どちらにも強い思いは無い。ただ、もつとしたら不安要素はたくさんある。同級生の友人は続々と子どもをもつようになっていく中で、もたないと決める人の生き方が気になった。これまでの女性の生き方としてはもつ方が自然で、もたない方が不自然だとされてきた。そんな中でもたないと決めた人は強い意思があったのだろうと感じるので、その意思に敬意を抱くとともに、どんな心持ちなのか知ってみたかった。

 

著書の中で村田沙耶香著『コンビニ人間』と『消滅世界』が取り上げられていて、かなり驚いた。出てくる本を今ちょうど読んでいることなんてあるかよ。知らず知らずのうちに似たようなテーマの本を選んでいるのかもしれないなと思った。

著者の下重さんが子どもをもたないことで幸せに暮らしている様子は手に取るように分かった。どちらが幸せなのかということではなく、「自分に合った幸せを選びなさい」というただそれだけなのだと思う。ただそれだけのことが、とても難しいのですが。

結婚していた頃は「私が産む私の子どもだから」という意識が強く、産んだ後に誰かに子育てを任せるなんてもってのほかで、自分の手でなんとしても育てたいという思いが強かった。自分の希望というよりは、それが義務なのだとどこかで思い込んでしまっていたのだ。その思い込みはもう解消できた。今後もし子どもをもつのだとしたら、“自分が産んだとしても自分とは切り離された一つの生命”だということを理解し納得できてからにしたいと思う。自分にも、そして子どもにも、必要以上の期待をしない状態が作れたらいい。

下重さんの本も初めて読んで、とても素敵な人だ~!と一冊で好きになってしまった。私も下重さんのように「この人は自分で決める人だから」と周りから言われるように生きていきたい。

 

 

  • 嚙み合わない会話と、ある過去について/辻村深月

さあさあさあ!今回一番書きたかったのはこの本について。

辻村さんは『はじめての』で意図せず読み損ねてしまって、今度は辻村さんの本をちゃんと一冊読みたいと思った。その中でも装丁が一段と可愛くて、タイトルに「嚙み合わない会話」とあることに惹かれてこの本を手に取った。私も「嚙み合わない会話」に興味がある。興味があるというか、「ほとんどの会話って嚙み合ってないよね」と普段思っている。質問されたことに対して答えになっていないとか、そもそも質問が質問になっていないとか。そういうことが気になる。だから「嚙み合わない会話」をテーマに据えて書く人がいるんだという喜びがあった。

 

短編小説が4編入っているのだが、どれも物凄い。本当に凄い。こんな切り口があったんだ……!と思う。視点が素晴らしい。みんなどこかでちょっとだけ気付いていたけれど、でも本当の意味では気付いていなかったことを、ちゃんと気付かせてくれる。これでもかという程に胸に突き付けてくれる。ここまでするかと思うが、ここまでするのが親切なのかもしれない。

どの小説でも、基本的には対立する(話が嚙み合わない)2人がいて、どちらの視点も見せてくれるし、どちらの言い分も分かるようになっている。でも、どちらかが悪でした!こちらが悪者でした!という終わり方にはしない。こういうことがありました、ということしか言わない。それも親切なんだよなと思う。

どのお話も好きだし凄いとしか言いようがないけれど、一番展開的に裏切られたのは『パッとしない子』。明るい話かと思いきや急カーブして引きずり下ろされる。そういう書き方が出来るの凄……とぞっとするというか。気を付けようと思ったし、気を付けたうえで恨まれることもあると割り切るしかないとも思った。

あとは最後の『早穂とゆかり』。この作品が自分の経験と照らし合わせて一番刺さった。あの時のあの人もこうだったのかも、と現実の人物のことを思った。いつでも誰かを傷つけているんだと思う。人間関係とはそういうものなんだと思った。

とても大切な一冊になった。こういう切り口で物語を書く人がいるんだということがなんだか勇気になるというか。この衝撃をしっかり心に覚えさせておきたい。

 

3冊なのにすんごい長くなった。それくらい私にとって重要な3冊だった。本を読む楽しさよ、ありがとう。

また何か読んだら書きます。